序文
日本頭頸部外科学会(Japan Society for Head and Neck Surgery)は会員に対する総会および学術集会、研究発表会、講演会等の開催、機関誌、論文図書等の発行、その他の事業を通して、頭頸部外科に関する研究の進歩、およびその成果の普及を計ることを目的としている。この目的のために、学術集会・刊行物などで発表される研究においては、医療機器・医薬品・特許を獲得するような新規技術を用いた種々の研究が行われ、産学連携による研究・開発が少なくない。
産学連携による研究では、学術的・倫理的責任を果たすことによって得られる成果の社会への還元(公的利益)と、産学連携に伴い取得する金銭、地位、利権など(私的利益)を発生する場合がある。アカデミアが営利企業への参入を多くすればするほど、学術機関としての社会的責任と産学連携活動に伴い生じる個人の利益が衝突・相反する状態が必然的・不可避に発生する。これらの二種類の利益が研究者個人の中に生ずる状態を利益相反(conflict of interest:COI)と呼ぶ。今日における社会では産学連携による研究が推奨され、それに伴う利益相反状態が生じることは避けられないものであり、特定の活動に関しては法的規制がかけられている。
しかし、法的規制の枠外にも利益相反状態が生じる可能性がある。利益相反状態が深刻な場合は、研究の方法、データーの解析、結果の解釈が歪められることが危惧される。一方、適切な研究成果であるにもかかわらず利益相反が開示されていない場合公正な評価がなされないことがある。これらのことから、利益相反の指針を明確にすることにより、産学連携による研究を積極的に推進することが重要である。
I.目的
日本頭頸部外科学会(以下「本学会」という)は、その活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されることを鑑み、「利益相反に関する指針」(以下「本指針」という)を策定する。本指針は人間を対象とする研究の威信とその成果に対する社会的信頼を確保することであり、臨床研究への取り組みを規制したり、実施を阻害することではなく、むしろ研究者が安心して、自由で質の高い臨床研究を推進することのできる環境の醸成を目的としている。そこで、本学会会員に対して利益相反についての基本的な考えを示したうえで、本学会が行う事業に参加し発表する場合、自らの利益相反状態を自己申告によって適切に開示し、本指針を遵守することを求める。
II.対象者
以下の対象者に対して、本指針が適応される。
- 本学会会員
- 本学会学術講演会などで発表する者
- 本学会の役員(理事長、理事、監事)、学術講演会担当責任者(会長、次期会長)、各種委員会委員長、特定の委員会委員、暫定的な作業部会の委員
- 本学会の事務職員
- 1~4の対象者の配偶者、一親等の親族、また収入・財産を共有する者
III.対象となる活動
本学会が関わるすべての事業における活動に対して、本指針を適応する。特に本学会の学術集会・講演会等での発表、および機関誌、論文、図書などでの発表を行う研究者には本指針の遵守が求められる。
IV.開示・公開する事項
対象となる活動を行う場合、本人並びに配偶者・同居する一親等において以下の①~⑨の事項で、細則に定める基準を超える場合には、所定の様式に従い、利益相反の状況を自己申告する義務を負う。自己申告及び申告された内容については、申告者本人が責任を持つ。
- 企業や営利を目的とした団体の役員、顧問職
- 関連する株式による利益、株式の保有
- 企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
- 企業や営利を目的とした団体から、研究者を拘束した時間・労力に対し支払われた日当(講演料など)
- 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆料に対して支払った原稿料
- 企業や営利を目的とした団体が提供する研究費
- 企業や営利を目的とした団体からの研究員等の受け入れ
- 企業や営利を目的とした団体が提供する寄付講座
- その他の報酬(研究とは直接無関係な旅行や贈答品など)
V.利益相反状態の回避
- 全ての対象者が回避すべきこと
研究の結果の公表は、純粋に科学的な判断あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである。本学会会員は、研究の結果を会議・論文などで発表する、あるいは発表しないという決定や、研究の結果とその解釈といった本質的な発表内容について、その研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず、また影響を避けられないような契約書を締結してはならない。 - 臨床研究の試験責任者が回避すべきこと
臨床研究(臨床試験、治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ試験責任者(多施設臨床研究における各施設の責任医師は該当しない)は、次の利益相反状態にないものが選出されるべきであり、また選出後もこれらの利益相反状態となることを回避すべきである。- 当該臨床研究を依頼する企業の株の保有
- 当該臨床研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権の獲得
- 当該臨床研究を依頼する企業や営利を目的とした団体役員、理事、顧問(無償の科学的な顧問は除く)
- 但し、a~bに該当する研究者であっても、当該臨床研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり、かつ当該臨床研究が国際的にも極めて重要な意義をもつような場合には、当該臨床研究の試験責任医師に就任することができる。
VI.利益相反の管理に関すること
個人情報・研究又は技術上の情報を適切に保護するため、正当な利用なく倫理委員会等における活動によって知り得た情報を漏らしてはならない。
VII. 実施方法
- 会員の責務
会員は医学研究成果を学術講演、学会機関誌などで発表する場合、当該研究実施に関わる利益相反状態を、本学会の細則にしたがい、所定の書式で適切に開示するものとする。 - 役員等の責務
本学会の役員(理事長、理事、監事)および幹事、学術講演会担当責任者(会長など)、各種委員会委員長、特定の委員会委員、および作業部会の委員は本学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状態については、就任した時点で所定の書式にしたがい自己申告を行なうものとする。また、就任後、新たに利益相反状態が発生した場合には規定にしたがい、修正申告を行うものとする。 - 利益相反委員会の役割
利益相反委員会は、本学会が行うすべての事業において、重大な利益相反状態が会員に生じた場合、あるいは、利益相反の自己申告が不適切で疑義があると指摘された場合、当該会員の利益相反状態をマネージメントするためにヒアリングなどの調査を行い、その結果を理事長および該当する担当責任者(編集委員会委員長、学術講演会担当責任者など)に答申する。 - 理事会の役割
理事会は、役員などが本学会の事業を遂行するうえで、重大な利益相反状態が生じた場合、あるいは利益相反の自己申告が不適切であると認めた場合、利益相反委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。 - 学術講演会担当責任者の役割
学術講演会の担当責任者(会長など)は、学会で医学研究の成果が発表される場合には、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する演題については発表を差し止めるなどの措置を講ずることができる。この場合には、速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する。なお、これらの措置の際に上記担当責任者は利益相反委員会に諮問し、その答申に基づいて理事会の承認を得て改善措置などを指示することができる。 - 編集委員会の役割
学会誌編集委員会は、学会機関誌などの刊行物で研究成果の原著論文、総説、診療ガイドライン、編集記事、意見などが発表される場合、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する場合には掲載を差し止めるなどの措置を講ずることができる。この場合、速やかに当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する。本指針に違反していたことが当該論文掲載後に判明した場合は、当該刊行物などに編集委員長名でその旨を公知することができる。なお、これらの措置の際に編集委員長は利益相反委員会に諮問し、その答申に基づいて理事会の承認を得て改善措置などを指示することができる。 - その他
その他の委員長・委員は、それぞれが関与する学会事業に関して、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する事態が生じた場合には、速やかに事態の改善策を検討する。なお、これらの対処については利益相反委員会に諮問し、答申に基づいて理事会は改善措置などを指示することができる。
VIII.指針違反者への措置と説明責任
- 理事会は、本指針に違反する行為に関して審議する権限を有する。
- 本指針に違反した行為がある場合、倫理委員会で検討し、理事会で審議する。その結果、重大な遵守不履行に該当すると判断した場合は、遵守不履行の程度に応じて罰則を科することができる。
- 不服の申し立て
IXの2により措置を受けた者は、本学会に対し、不服の申し立てをすることができる。学会はこれを受理した場合、倫理委員会において再審理を行い、理事会の議を経て、その結果を被措置者に通知する。 - 説明責任
本学会は被措置者により発表された研究に関し、倫理委員会及び理事会の議を経て、社会に対する説明責任を果たさなければならない。
Ⅸ.細則の制定
本学会は、本指針を運用するために必要な細則を制定することができる。
X.施行日及び改正方法
この指針は、平成25年5月16日から施行する。本指針は法令の改変等の各種事情により、事例によって一部変更が必要となることが予想されるため、定期的に見直し、改正することができる。