日本頭頸部外科学会

一般のみなさん

下歯肉がん

下歯肉がんとは

下の歯肉(歯ぐき)に出来るがんを下歯肉がんと言います。下歯肉がんは口に出来るがんの中では舌がんに次いで多く、1年間に500~600人が罹患します。奥歯の歯肉に発生することが多く、ぐらぐらの歯を抜いたらその穴にがんがあったということもあります。歯痛、歯や歯肉の違和感、歯の動揺などをきっかけに見つかることが多いです。歯や歯肉の症状で歯科医院を受診される方も多いと思いますが、2週間以上続けても改善しない場合は耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診することを強くお勧めします。

検査

まず外来で視診と触診を行い、がんが疑わしければ生検を行います。続いてCT、MRIを行います。歯のレントゲンも有用です。下歯肉がんでは下顎骨浸潤の程度が治療法を左右するため、複数の検査を組合せて判断する必要があります。肺などへの転移を確認するためにPET検査を行うこともあります。飲酒喫煙による重複がん鑑別目的に上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。

治療

手術による摘出が最も有効な治療(標準治療)です。がんがある部位の歯と歯肉を切除します。がんが小さく粘膜の切除が小さく済めば、創部は人工シートや周囲の口腔粘膜で閉鎖出来ます。一方、がんが大きい場合は舌や扁桃腺の一部を切除することもあります。下歯肉がんは容易に下顎骨へ浸潤するため、下顎骨も部分的に切除することが多いです。骨浸潤が浅ければ下顎骨の上半分だけを切除する辺縁切除を行いますが、浸潤がある程度以上深い場合は下顎骨の一部を切断・切除する区域切除を行います。下顎骨区域切除で生じる骨欠損は腓骨(すね)や肩甲骨などの骨皮弁か金属プレートを用いて再建します。腓骨皮弁再建後は2~3週間歩行出来ないことが多く、ご高齢の方や合併症がある方には向いていません。金属プレート再建は術後数年後にプレートが皮膚や口内に露出して感染源になることがあります。噛み合わせは悪くなりますがあえて下顎骨再建を行わないこともあります。頸部リンパ節転移を伴っている場合やその可能性が高い場合には、同時に頸部のリンパ節を切除する手術(頸部郭清術)を行います。術後喉頭浮腫による窒息を避けるために気管切開を行います。

治療後

切除範囲に応じて術後1~14日で経口摂取が開始されます。この頃に喉頭浮腫が改善していれば気管切開を閉鎖します。切除範囲が大きな進行がんでは食事の飲み込みがうまくいかず誤嚥が生じる場合があります。摂取できる食事の形態もペースト、ゼリー状などの制限が生じる場合があります。また、発語も切除範囲に応じて悪くなることがあります。リハビリによりある程度の回復は期待できます。退院後は定期的な通院が必要となります。時々CTなどの検査も行う必要があります。手術後の病理組織検査の結果次第で術後化学放射線治療が追加される場合もあります。失った歯を補うためには、創部が落ち着いた時点で顎義歯という特殊な義歯を作成します。近年では移植した皮弁の骨に対して金属を埋入してしっかりとした義歯の支えとする歯科インプラントが保険診療で行われるようになりました。いずれも高度な技術が必要であり専門的な歯科医師との連携が不可欠です。

更新日時:2020年11月5日
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